2018年07月20日
下北沢のチメ ゴルフ編
7月を待たずに梅雨が明け、連日30度越えの暑さにウンザリしつつ、チメはウエザーニュースで次の火曜日の天気を確認し、ため息をついた。そして叫んだ。
死んじゃう!
毎週火曜日のお休みに、ゴルフに行くチメは唸っていた。
雨も嫌だが、ここまで暑いと調子が出ない。
今年の目標がまだ達成できていない。
‘一人ゴルフ’とチメは言っている。
登録している方がそれぞれ一人で参加して、新宿からマイクロバスでゴルフ場まで連れて行ってくれて、その中でメンバーを組んでラウンドする。
ツアーみたいな感じかな?
登録しているメンバーの方々は、曲者ばかり。
常連さんは顔を合わせることが多いので、それぞれの性格はほぼ把握している。
年齢的にはチメより上の方がほとんどで、なかには80歳近い強者もいる。
チメ自身も80までゴルフをしたい様だが。
ただ年を重ねると、人間はわがままになる。
メンバーも面倒な方が多い。
ゴルフの朝は早い。
新宿を、7時出発だとすると、チメは3時30分には起きている。
下北沢の自宅からタクシーで15分足らず。
瞑想から始まり、ストレッチして体を目覚めさせ、シャワーを浴びて念入りに髪をブローするには、この時間に起きるしかない。
このルーティンをこなすのに忙しい。
そんな時に、タラコが‘山行くから5時に起こして’などとほざく。
子供じゃないから自分で起きなさい。
ルーティンが狂うじゃない。
タラコも面倒である。
行きのバスの中では、せっかく整えた体と、精神状態を他人に崩されたくないし
寝不足の時など少しだけでも睡眠をとりたい気持ちはわかっていただけるだろう。
そんな時に、おしゃべりでチメが苦手なおばさんが隣になってしまったら最悪。
ずーと、チメにはわからない友人の話やらを、話しかけると言うより、念佛を唱えるように独り言?
そんなときのチメは、鋭い眼光に‘ぶつぶつうるさい!静かに寝かせて!!’という念を込めて睨みつけ黙ってもらう。
その後おばさんは通路をはさんだ反対側の人にぶつぶつ念佛を唱え始めた。
皆が迷惑しているのがわからないみたいね。
ゴルフは、メンタルの状態に左右されるスポーツ。
せっかく朝の3時過ぎから整えていたのに、台無し。
皆、一人で参加してくるのでそれなりの腕や癖に加え図太さがある。
これも修行だと思って、我慢。
中には、気が合って仲良くなり別に約束してラウンドする人もいるのだが、まれである。
そして、メンバーが発表になるのだが、中には毎回のように他人が打った後に‘強い!’
‘短い!’と余計なことをほざくオヤジや、歴が浅いのか微妙に気の利かないおばさん。
人が打つ時に真後ろに立つ、人のパッティングライン上に立つなど危ないし気が散る。
そんな方と一緒になるとまた最悪。
すべて修行。メンタルを鍛えるのだ。
月に1、2度は高校の同級生や、気の合うゴルフ仲間ともラウンドしている。
そういえば以前に同級生女子4人でラウンドした時に、みんなのスコアが88でそのスコア票をタラコに見せたら、目を丸くして8が4つも並ぶなんて!ミラクル!’叫んでいたわね。
やはり仲の良い同志で行くのは楽しい。
みんな上手くてライバルだけど。
ゴルフというスポーツに詳しくないタラコはよく‘プロテストを受けなさい’などという。あまりにばかばかしい発言なので相手にはしない。ちなみにチメのベストは82。
今年中に70台を出したいのだが、いまいち調子が上がらずに夏になり折り返しに来てしまった。梅雨が早く明けたおかげで天気が良いのはいいが、体調管理、食事に気を付けなければ。
それなりのゴルフ場でもレストランのランチがヒドイこともある。
普段はナンが美味しいカレーを出しているところで、何故か“カレーフェス”をやっていたことがある。何種類からか選べるようになっていたので、チメはバターチキンカレーを選んだ。
これが最悪に不味かった! 予想をはるかに超える不味さ。
初めてカレーを半分近く残してしまった。この黄色だかオレンジだかの見た目に、ぼんやりした味?カレーフェスなんかしないでいつものカレーを出しているほうがはるかに美味しいのに?
違うものを注文し直す時間もないし、胃腸がもたれてきた。こんな状態では、午後のラウンドにひびいてしまう。
思い出した。
以前タラコが家で作ったカレーを鍋ごと捨てたことがある。
修正不可能なカレー。
どうしたら、こんな味に作れるの?
問い詰めて見ると、気分がタイだったようで、奥にしまってあったトムヤンクンの素を入れたらしい。アホですか?
当然のように酸味がする。
タラコは何とかしなければと、頭に浮かんだのが‘ココナツミルク風’にすればマイルドになる?
ココナツミルクがないので、何を思ったか、牛乳を入れた。
見た目は確かにマイルドな感じですが、部屋中に生暖かく酸っぱい牛乳の香りが漂う。
チメは、牛乳と酢モノが嫌い。
その後チメがどのような態度をとったかは、ご想像にお任せします。
それからタラコは余計なことはしなくなった。
食べなくても、ナンバーワンの不味さ。
ゴルフは、メンタルと体調に左右される。
やはり夏のゴルフは、日焼けや化粧崩れが気になる。
これもまたイライラする原因でもある。
チメは試行錯誤して、究極のベースとファンデーションにたどり着いた。
なぜ日焼けに気を使うか?
ラウンド終わりのお風呂である光景を見たのがきっかけ。
そのお風呂場は窓から夕陽が差し込み、洗い場付近が影になっていた。
‘あれ?ここの洗い場は鏡がない?’
よく目を凝らしてみてみると、浅黒い下駄のように四角く幅広の背中が3つ並んでいた。
レスラーでもいるの?
背中が鏡を覆い隠していた。
また、いつかの同級生とのゴルフでのことである。
先にトイレに行った友人の後を追い化粧室に入ろうとした瞬間、勢いよくドアが開いた。そしてアッコさんのようなツヤツヤヘアーに真っ黒に焦げた肌をしたおばさんが、サッサーと出てきた。
チメは思わず身構えてしまった。
振り返りつつ中に入ると先にトイレに入っていた友人が、‘今ゴキブリが出て行ったでしょう!’確かに、あの色、ツヤ、動き!私も気を付けなければ。
チメは筋肉質なうえ、すぐ色を吸収して黒くなる。
するとタラコが‘大会に出れば?’と言い出す。ボディービルの大会のことだ。
そんなタラコにはイラつくが、チメもまんざらではなく、ついついポーズを決めてしまう。
ただ、ゴキブリにはなりたくない。
マイクロバスを運転するドライバーさんも色々だ。
ドライバーはただ車を運転するだけでなく、アテンドしたり時にはお客と一緒にプレーをしたりするのも仕事だ。
行きも帰りも手早くキャディバックを積み、ゴルフ場の込み具合からスタート時間を早めたりするのも機転が問われるところだ。
機転が利く人は、帰りも渋滞を見ながらルートを選択して少しでも早く新宿を目指そうとしてくれる。
反対にどの行動を見ても、やっつけでしか仕事をしていない人もいる。
しゃべり方も立ち居振る舞いも緩慢で覇気が感じられない。多分仕事が嫌いなのだろう。
数人いるドライバーを見比べるだけでも「どんな仕事にもクリエイティビティが必要だな」などと帰りのバスの中で考えさせられてしまう。
またこの帰りの時間もチメには大切である。
今日のラウンドの反省をしながら、練習の時に撮ったスイングの動画を確認してみたりと色々考えることがある。
幸いにも、おしゃべりなおばさんは離れた席にいる。
今日のドライバーさんは、仕事ができる人。ルートをうまいこと選んでいる。
残念なのは、ベーシックルートでいつも寄る、ミニストップのパフェが買えないこと。
下北沢にはミニストップがなく、この季節限定のパフェを楽しみにしているけど、
早く帰れるのなら仕方ない。
今日はタラコのごはん当番。
ちゃんとした食べ物を作っているかしら?
窓の外には、地平線と平行に帯状の雲が長ーくどこまでも伸びていて、そこに夕日が沈もうとしている。
雲が海に浮かぶ島のようにも見える。綺麗・・・。
やっぱりゴルフはやめられない。